規定解説の枠組
ボードゲームのインストについて語ろうと思う。
インストとは、平たく言えばルール解説である。
未プレイの人を同じゲームで遊んでくれる良き同志とするために絶対必要な儀式である。
これがまた難しい。
説明すべき内容は困ることは無い。
取扱説明書に書かれている内容を伝えるだけである。
しかし、どの順番で、何を伝え、何を伝えず、インストをするのか。
それによってインストの質は天と地ほども差異が出うる。
そんなわけで、よく人にインストすることの多い自分が、いつも気をつけていることを明文化してまとめてみようと思う。
以下目次。
1. 世界を伝える
1-1. コンポーネント
1-2. できること
1-3. できないこと
2. ゴールを伝える
2-1. 勝利条件
3. ゲームの流れを伝える
3-1. ゲームのフロー
3-2. 典型的な勝ち筋
4. 特定の情報を伝えない
4-1. 敢えて情報を伏せる
1. 世界を伝える
最も最初にやるべきは世界を伝えること。
テーマを伝えることとイコールではない。
(もちろん、一番最初にテーマを伝えるのも重要)
この世界の広がりがどこまでなのか、その世界をどのように歩けるのか、歩けないのか、伝える必要がある。
1-1. コンポーネント
まずはゲームに用いられるコンポーネントの説明をする。
ゲームが簡単であればわざわざ説明するほどのものではない、と思いがちである。
しかし、コンポーネントがカードのみのゲームであっても、どんな種類のカードがあるのか説明することは非常に重要である。
コンポーネントの多い複雑なゲームであれば、まずはコンポーネントの"種類"を説明するにとどめるがよいだろう。(「このように数種類の資源があります」など)
コンポーネントはそのまま世界の広がりである。
1-2. できること
登場するコンポーネントの紹介が一通り終わったら、それを用いてできることを説明する。
(基本的にはコンポーネントの紹介とセットで行われることであろう)
資源を払って建物を建てることができるのか、攻撃カードをセットすることで相手にダメージを与えるのか、相手より高い値を提示することで対象物を競り落とせるのか。
できることの説明は、そのゲームの世界に置いて、勝利に向かって「歩いていく方法」を提示するに等しい。
1-3. できないこと
ゲームには当然、ルール上「できないこと」が存在する。
これはできることを伝えることと同等以上に必要な情報である。
1ターンに複数枚カードを使うことはできない、食料支払いフェーズを飛ばすことはできない、スタートプレイヤーが出したスートと異なるスートのカードは出すことができない。
ただし、できないことを正確に伝えようと思うと切りがない。
「4. 特定の情報を伝えない」にも関係するが、ここでは必要最低限の情報にとどめるがよいだろう。
2. ゴールを伝える
2-1. 勝利条件
インストにおいて最も重要な事項は、ゴール・勝利条件を伝えることである。
何を目指していけば良いのか。
いつのタイミングで勝敗が確定するのか。
ゲーム中に「できること」のうち、何が勝利に結びつくのか。
よくあるのは、取得したカードの枚数や勝利点が勝敗を決するゲームであろう。
一方でお金などは勝敗判定に含まれる場合と含まれない場合がある。
その差異はゲーム中の振る舞いに大きく影響するため、かなりセンシティブに伝える必要がある。
また、勝利条件に付いて”いつ”伝えるのかは難しい問題である。
勝利条件が分からないまま、ゲーム中の手続きを聞くのは非常に苦痛である。
「青い資源を払うことで黒いタイルを手に入れられ、それと白いタイルを複数毎払うことで建物を建てることができる」
建物を建てることがどんなメリット(勝利との関連性)をもっているのか分からないまま聞くのは非常に苦痛であり頭に入ってこない。
その一方であまりに速い段階に勝利条件を伝えることも難しい。
ゲーム中で何ができるのかも分からないまま、
「この勝利点タイルを数多く集めることができた人が勝利です。あと特殊勝利として、5種類の軍隊トークンを集めた人も勝ちです。ただしこれは5ターン以内に達成されたときのみ有効です」と言われても理解も記憶もできない。
結局は「程よいタイミング」で伝えるほか無い。
個人的には早めに伝える方がよいとは思っている。
3. ゲームの流れを伝える
ゲームの全体感が説明できたのであれば、実際の細かい手続きについて伝え始める。
これが理解できていないと一人のプレイヤーとしてゲームに参加する準備ができているとは言えない。
3-1. ゲームのフロー
ゲームに参加する場合、プレイヤーに巡ってくる各イベントの流れを伝える。
この際もマクロ→ミクロの説明順を守るべきだと思う。
つまり、「全体は春・夏・秋・冬の4シーズンで構成されており、冬が来たらゲーム終了である。各シーズンでは資源の配置→建物の購入→コマの再配分の順で行われる」といった感じである。
これを説明する場合には実際にコンポーネント等を用いながら説明するのがよいだろう。
コマの動きや手順を視覚的に理解することができる。
裏を返すと、非公開情報が多いゲームでは各プレイヤーのゲーム準備を完了させてしまう前に、インストを行った方がよいだろう。
3-2. 典型的な勝ち筋
人によって好悪分かれるところだとは思うが、典型的な勝ち筋のヒントを与えるのはゲームを理解してもらう上で、非常に有効だと思っている。
ある効果やコマが何のために存在しているのか、どこにジレンマがあるのか、デザイナは何を期待しているのか、通常はゲームを行っていく中で気づくべきものであるし、その過程こそがボードゲームの面白さと考えている人も多かろう。
一方で、初心者はそのデザイナの意図に気づくのに時間がかかり、それを理解する前にゲームを放棄してしまう恐れがある。
そうはならぬよう、デザイナの意図を示唆することで、ゲーム理解の背中を押すのである。
ただし、やはり、やり過ぎは禁物。
あくまで「示唆」にとどめなければいけない。
4. 特定の情報を伝えない
4-1. 敢えて情報を伏せる
インストと取扱説明書の大きな違いは何か。
取扱説明書は一方通行であり、時間的広がりの無い情報である。
一方、インストは相互作用的であり、情報伝達タイミングを任意に選択できる。
前者にできなく、後者にできることは「任意のタイミングでは情報を伏せておくこと」である。
インストを受けている人は基本的に情報多価になり、アップアップ状態になっていることが考えられる。
インストしている側はフェアであろうとして、ルールをすべて伝えたがるが大体はそのすべてを受けきれない。
どうせ伝わらないのであれば、伝えないのも一興、という趣旨である。
もちろん、ゲームに重要な影響を与えるルールを伝えないのはインストとして成立していない。
「些末なルール」や「非常に稀な場合にのみ適用されるルール」を伏せることを考えるべきであろう。
必要な情報を伝えるというラインを満たした上で考えるべきなことなため、エクストラな事項であることはご留意いただきたい。
最後に、インストで一番重要なことを。
インストを始めた直後に「このゲームは一文で言えばこういうこと」という説明をすべきである。
さるやまであれば「色が同じサルの上にサルを置いていき、手札が無くなったら勝ちのゲーム」。
アグリコラであれば「必要となる食料や資源を手に入れながら、家族や施設を発展させていくゲーム」。
その一文をどれだけ巧く伝えられるかでインストの質が決定すると言っても過言ではないと思っている。
一文で伝えられないことは、どれだけ言葉を尽くしても伝えられない。
そしてもう一つ。
インストを聞いている相手の反応をよくよく伺うことが大切である。
相手はどれだけボードゲームに詳しいのか。
自分の説明を理解しているのか。
既にある程度分かっており、先を聞きたいと思っているのか。
とりあえずやってみたそうか。
取りうる戦略について思いを巡らしているか。
結局、人相手の説明であるため、相手の様子を伺うことから万事始まるといっても過言ではない。
参考になれば幸いである。